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久しぶりに小説ページに上げようと思ったらなんだか文字化けがなおらないのでいつも通りこねたで更新します……本文かくしてます右下から↓


いつもは自分の存在をひたすら宣言するかのように足音高く歩む男が、今日に限ってその気配を押し殺して僕の背後に立っていたのを、誰もが寝静まった時間に画面に夢中だった僕が気づく訳はなかった。
ただ彼がだまって背中から腕を回したときになって、やっとグラハムが自分のすぐ近くにいたことを知ったのだった。唐突にあるはずのない腕に抱きしめられた僕はそれはもう驚き、小さく情けない声をあげた。
僕の腹の前で組まれた腕、遠慮がちに背中に押し付けられる頭に、やっと僕はこれがグラハムだと理解する。ささやく用に名前を呼べば、返事のかわりにぎゅうと背中に頭を押し付けられた。
だからぼくはそれ以上言葉を発することをせずに、軍服の腕から白い手袋の手までを静かに一度だけ撫でることしかできなかった。
そう何度も何度もこの友人がこんな風に僕に接することがある訳ではなかったけれど、僕はグラハムが押し黙って僕とゼロ距離にいたがるときはいつでも、なんて言葉をかけていいのか途方にくれるばかりだった。
彼のまわりで、頭の中で、いったい何が起きているのかはわからない。グラハムは一度だってこんな風にする理由を言わなかった。
本当ならきっとガールフレンドに慰めてもらいたいのかもしれないけれど、残念ながら待機中とはいえまだ任務中で基地にいるグラハムには、どう頑張ったって女性には見えない痩せた冴えない友人くらいしかいなかったのだろう。おそらくはきっとそんなところだ。

僕は、たまに、急に夜そのものが寂しく感じるときがある。
徹夜で仕上げるつもりだったはずの仕事が幸か不幸か予定よりもはやく上がってしまったとき、うっすらと青白くなっていく午前三時の夜空を見て、いっさいの音が透明にされたような静かな大気の中でひどく恐ろしい様な心持ちに襲われた。明け方の冷えた空気が肌を撫でるたびに言いようのない不安が広がって、僕は画面とのにらめっこでがんがんと痛む頭を抱えながら無理矢理仮眠用のベッドに潜り込んでいた。きっとこれが寂寥なのかもしれない、ぼんやりそんなことを考えた。そのときに僕は思い浮かべるべき女性の姿が見当たらない代わりに、グラハムと話がしたい、と、ぼんやりと思ったのだ。
いい年をした男がそんな思いにかられているのがなんとなく気恥ずかしくて、僕はそんな考え思いつかなかったふりでやり過ごすのが普通になってしまったのだけれど。

グラハムも、冷たい夜から、得体の知れない寂しさを感じることがあるんだろうか。だからこうして、僕の背中に額を押し付けて押し黙ったりするのだろうか。

(……わかるよ)

心の中で声を出してみる。その言葉の身勝手な響きに思わず顔をしかめるけれど、相変わらずグラハムは背中に張り付いていてしかめた僕の表情など何も関係なんて無かった。

(……君はそんな言葉が欲しい訳ではないんだよねえ……僕もそんな言葉を伝えたいわけではないんだ、きっと)

正直どんな言葉でさえ、今の彼には無意味であることはわかっていた。それでもただ彼を背中で甘やかすだけというのも気が引けるのだ。その思いに対して、口の中だけで、傲慢だ、と呟く。

(だけど聞いてくれよ、グラハム)

キーボードの上にのせていた腕を垂らす。もう一度彼の腕を撫でようとして、僕の手は結局彼に触れる代わりにグラハムの邪魔をしていただろう後ろに垂れ下がった髪を肩に流す。それからじっと押し黙ったまま、声に出す気もない言葉を探した。

(こんな風にされると君がしんから僕のことを信頼してくれているんだと思えて、たとえそれが僕の思い込みだとしても、少しだけ、いや少しなものか、僕は、とてもうれしい)

友人といえる友人、しかも彼ほど長く同じようにつきあっていた友人はいなかった。相手の表情を伺って、表面だけをきれいに掬い取って反射する必要もなく素直に話せる友人は、グラハムしかいなかった。
腹の奥からじわりと温かいものが広がって、指先が変に熱を持つ。

(だから、わかるよ、なんて言ってみたいのかな)

ばかなことだ、と心の中で自分の声が囁く。
こんな風で黙り込むグラハムは、まるで眠っているかの様だ。本当にただ眠っているのかもしれない。
わかるよ、わかる。だからどうかもう少しだけ眠っていてくれないか。
心の中でうそぶいて、僕は彼の呼吸を数える。
深く長い息をゆっくりと吐く、そのリズムに自分の呼吸を合わせてみる。
すると自分とグラハムの呼吸の音だけが部屋のなかで響いているのに気づいて、自分がそういえば仕事の手を止めてしまっていたことに気がつく。
静かな夜の気配と、二人分の呼吸がなじんでいく。心地の良い冷たさだった。

僕は今、何事も無かったかの様に仕事を始めるべきなのだろうか、それともこの腕はやさしい友人の為にまわされるべきなのだろうか?

じっとキーボードを見つめてから、白衣にしがみついて眠っている男の腕に視線を落とす。
一度ためらって、それでもやはり勇気を出してその腕に手を伸ばそうとした瞬間、背中から直に低い声の振動を感じた。

「すまなかった、ただ少し君を驚かせるつもりだったのだが……少し眠っていた様だ」
突然の声に跳ねた指をごまかしながら、グラハムのへたな嘘に当然の様に笑う。
「まだ肌寒いからね。きっと無意識のうちに暖をとりたかったのではないかな?」
「そうかもしれない。……邪魔をしてしまったな」
言いながらグラハムの腕の力が一瞬だけ強くなる。僕はそれにも気づかないふりだ。
「かまわないさ。よかったらソファをどうぞ、グラハム。椅子の上よりかは睡眠しやすいと思う。毛布もどこかにあるはずだから、探してみるといい」
「心遣いに感謝する」
「いえいえ」

これで、いいんだ。
僕はグラハムの腕に込められた真意だってわからないで、聞こうともせずに、孤独を孤独のままで放棄しようとしている。

ずるい、と、心のどこかで思う。それは自分自身だけではなく、グラハムに対してもそう思っている。
ここからここまで、距離はいったいどの程度だったっけ?
多分お互いにわからないから、知るのが怖いから、奇妙な間隔をとり続ける事になってしまうのだ。


「それでは、すこしソファを借りるぞ。邪魔になったら起こしてくれてかまわない」
「今夜中にはこれを終わらせてしまいたいから、おそらくは君を起こす事にはならないと思うよ」
「カタギリ」

その僕を呼ぶ声に振り返る。眠そうに細められた目は、端末の画面の光にまぶしそうになりながらもそれでも一生懸命笑みを作ろうとしていて僕はつられる様に微笑む。まるきり自然に、その髪に、必死に睡魔と闘っている最中のまぶたに、触れてみたいという気持ちがなぜか湧いてくる。
そんなことはおくびにも出さずに僕は笑んだまま言う。

「なんだい」
「おやすみ」
「……おやすみ」
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