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「うそをつくよ」
「……それも嘘か?」
「面倒くさい性格だねえきみは……とにかく、僕はこれから嘘をつくよ。君の前では誠実でありたいから、今日のうちに一年分の嘘をつくことにするよ」
新調したばかりのソファのカバーを撫でながら、隣に座るカタギリはそう言って不敵に笑ったが、その表情はだんだんと気難しげに眉を寄せたものに変わっていく。
「……うーん……急にしかも楽しくなれる様な嘘はぱっと思い付くものではないねぇ」
「君から言い出しておいて!」
あからさまに飽きれた表情をしてみせてもカタギリはそれには反応せずに反射する眼鏡の向こうで考えているままだ。だんだん飽きてきて手持ち無沙汰にソファカバーに指をすべらせていると、あ、とやっと何かを思い付いたらしいカタギリが声を漏らした。

「こどもができた」

一瞬ソファにはわせた指が止まる。
「…………認知はしよう……」
「その言葉が聞けて嬉しいよ」
「……もう少しまともなものは思い付かなかったのか!」
「叱られてもねぇ……ふと思い浮かんでしまったのはしょうがないじゃないか」

悪びれる様子もなく笑うカタギリに脱力しながら彼の腹に手をあてる。服越しでも赤ん坊どころか内臓すらきちんと入っているのか不安になる様な薄い腹を撫でると、へそはやめろとくすぐったそうに言いながらカタギリはその腕を軽く叩いた。
「……今動いたな」
なおも腹を撫でながら言う。
「うわあ君まで乗ってくれるとは」
「身に覚えが無いわけではない」
「そうだねえ……でも残念ながらそれはおなかをすかせた僕の腹の虫だろうね」
「そこで突然現実に戻るのか」
「グラハム、君も気付いてると思うけどもう僕は満足してしまったのさ」

端的に言えばつまり早くも飽きたということだろう。
「子供がいなくとも私にとって君さえいれば十分すぎる程だからな」
「それは素直に喜んでも?」
「もちろん本心さ」
よかったよかった、と気の抜けた声でカタギリは笑う。何より本気だが、と独り言の様に小さく呟くと、やや間があってから、カタギリはささやく様に、知っているよ僕は物知りだからね、と早口にうそぶいた。
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