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1日遅れのビリー誕生日おめでとう!本文は収納↓

くたくたになって帰宅した僕を待っていたのは真っ暗な部屋と不在通知だった。
つまみ上げたその小さなカードはちょうど僕と入れ違いになる様に宅配業者が来ていた事を知らせていて、せっかく来たところを追い返したくせにすぐに呼び戻すのは中々酷かと思いながらもきっと後回しにすればすっかり忘れるであろう自信はあったため、着替えるよりも先にその荷物のナンバーを端末で読み取った。十分もすれば再配達がされるという文言を読むと、僕は端末を放ると時間が経つほど強く首を絞めてくる感覚のするネクタイを外しにかかった。
その荷物が何か、取り寄せた学会誌だとかいつか読みたいと思っていた本だとかならきっと後回しでもかまわなかったのだろうけど、今僕の手の中のカードの送り主からの荷物は後回しにするわけにはいかなかった。きっと彼は当たり前の様に僕の部屋にやってきて、送ったはずの荷物が僕の部屋にいないことを多少なりと気にするだろうから。

いったい何を送りつけたのだろうか?休日になるとしょっちゅう本や映画などさまざまなものを人の部屋に持ち込んで一人で、あるいは僕も巻き込んで楽しんでいたりするから、いっそ僕の部屋に直接送りつけた方がはやいとふんだのかもしれない。実際そうだろう。
ただ能の映像ではないといいな、と思う。ジャケットの仮面を付けた和服の人間の画像につられたグラハムが持ってきた能の映像は、まあ確かに幻想的ではあったけど、あのふるわせて伸ばす声に僕は三十分と立たずに眠りの世界に引きずり込まれ、グラハムでさえ結局は居眠りのまま最後の場面を迎える事になったことがあったのだ。そんなことの後で、再チャレンジするには少しはやすぎる様な気がする。

部屋着に着替えて髪を首の近くで結び直している最中に、インターフォンが鳴る。固定端末の液晶には配達会社の制服を着た青年がカメラに向かって荷物を持ったままお辞儀をする姿が映っていた。

指紋認証で荷物を、しかも想像よりも大きく重い箱を受け取った。箱が仰々しく包装紙にくるまれおまけにリボンまでかけてあったところを見ると、それはグラハムの私物持ち込みではなく、何か僕へのプレゼントのようであった。しかし大人の人間が友人に贈るそれというよりも、サンタクロースがクリスマスツリーの下に大量にならべる包みの一つ、と言った方が正しい表現だった。
リビングに持ち込んで、出来るだけ包装紙が破けてしまわない様に慎重に荷物を開けていく。はじめは破らずにうまく包装紙を剥けていたけれど、途中で紙が破ける嫌な音が一度してからはもう丁寧になんて思ったことは忘れたことにしてびりびりとその包みをはがしていった。

水色の包装紙の下から出てきたのはまた箱だ。真っ白のその箱を軽く振ってみるとかたかたと小さな音がする。何が入っているかは検討もつかないままに箱に手をかけたところで、まるで僕を監視していたのだろうかというタイミングでグラハムが僕の部屋に突入してきた。
「お邪魔する!」
いいながら靴を脱いで僕のいるリビングまで異常な速さでやってくると、びりびりの紙の山の横で白い箱に手をかける僕を見たグラハムは満面の笑みを浮かべた。
「ちょうど良いタイミングで訪問できたようだな!」
「とりあえずいらっしゃいませとだけ言っておくよ」
「気を遣ってもらわなくてもかまわん。勝手知ったる他人の家だからな」
「何か使い方が間違っている様な気もするけどね……ところで、この荷物はなんだい?」
聞けば、グラハムは早速冷蔵庫からいつのまにかグラハム専用になっている硬水のボトルを勝手に取り出しながらとても得意そうに言った。口元に浮かぶ満面の笑みにこちらも目が細くなる。
「まあ、開けてからのお楽しみというやつだ。とにかく、開けてみろ」
そう言ってミネラルウォーターに口をつけるグラハムを横目に、僕は言われた通りに白い箱を開けた。

白い箱の中につめられていたのはまたいくつかの箱だが、それには内容物を表す印刷がされていた。
「君は気に入ると思ったのだが……どうかな?」
「……グラハム」
顔を上げれば相変わらずの得意げな顔で笑っていて、しかしそれを打ち砕くことは僕には出来なかったのだ。ただその得意げな笑顔を助長する言葉しか言えない。
「何だ?」
「最高だ!」

詰め込まれていた箱の一つを取り出せば、それは僕の生まれる前には当たり前の様に廃線となっていた古い汽車の模型の写真が引きのばされていて、日本の有名な模型会社のロゴが箱に大きく印刷されていた。
愛読書ゆえにベッド脇やラボのデスクの上に積まれていく本の塔の中、エイフマン教授の著書の間に挟まっていた汽車そのものや模型の写真の載った本のことを、グラハムは覚えていたようだった。

「うわあ、見てよこれ!きちんと走るみたいだよ」
「他の汽車と線路も一緒に贈ったはずだが」

そのことばに慌てて僕は白い箱を漁る。グラハムの言った通りお揃いのロゴを背負った、先ほどの汽車と色違いの兄弟やまた違う電車などの箱と、黒いレールが詰まった箱が出てきた。
すっかりはしゃいだ僕はまず最初に手に取った汽車の箱を開けると、なるべく指紋のつかない様にしてそっと取り出した。つやつやと光り、ずっしりと重い鉄の模型に惚れ惚れとしていると、手持ち無沙汰になったかグラハムが後ろから手を伸ばしてその模型のスイッチを入れた。
小さな駆動音とともにしゃかしゃかと車輪がまわる様は可愛らしくも力強い。もう一度グラハムの方に顔を向け、もう一度、最高だね、とだけつぶやく。

「気に入ってもらえたかな?」
「気に入らない訳ないだろう!!」

いくつになってもそして誰であっても、こんなおもちゃ嬉しいに決まっている。ひとしきり眺めて細部までまじまじと見つめると、ふと疑問が浮かぶ。

「何故こんなプレゼントを? 気まぐれかい?」
「その様な質問は想定の範囲だな、カタギリ。プレゼントの種類は気まぐれだが、タイミングは必然だ」
花束でも持っていかなければ君は気づかないのか?と苦笑するグラハムを見て、朝のラジオのアナウンサーが読み上げた日付の意味を思い出す。そうだった、ここまでくるとあまり数えたいものではないけれど、今日は僕の誕生日なのだ。日付はもう少しで変わってしまいそうだけれど。

「やっと理解したよ」
「思い出してもらってよかった」
「とにかく、ありがとう! 最高の誕生日だね……今すぐキスしたいくらいさ!」
「好きなだけ!」
「……君にじゃなくて汽車にが先だよ! それにしても……凄いな……しかも走るなんて」

抱きついてきたグラハムに言い切ると、さっきからやってみたくてしかたなかった様に、しゃかしゃかと車輪で空をかいていた汽車を走らせる。テーブルの陰に入ると自動でライトをつけるのを見て、思わず声を漏らす。そのまま夢中で好きな風に走る汽車を見つめる。

「本当に素敵だ……ライトまで……。…………あっ」
しかしあまりにも汽車本体に夢中になっていたせいか気づくと、僕の汽車はソファの下に一直線に入っていってしまったのだ。
「どうしようグラハム、汽車がソファの下にいった!」
「線路の上で走らせないのとあんまり私を蔑ろにするからだ!」
あきれた様に言うとグラハムは自分でUターンして戻ってきた汽車をつまみ上げると電源を切った。

「……気に入ってもらえて何よりだ」
「本当に嬉しかったけど、……少し夢中になりすぎたね」
急に気恥ずかしさを思い出して、ぼそぼそとつぶやけば彼はわかればいいんだと言って汽車をテーブルの上に置いた。
「とにかく、」
「ああ、ありがとう、グラハム」
「……はしゃいだ君を見るのはなかなか興味深いな」
そう言うグラハムはあからさまに拗ねていて、彼を目の前にして僕は言葉を探しながら空を見つめてしまう。
「えーと……ごめん」
「……謝られる様なことをされた覚えはない」
「いや、夜中にわざわざ会いにきてくれたのに君の言う通り君を蔑ろにしていたから」

きっと手渡しではなく配達にしたのは、本当は任務のせいで間に合わないと思っていたからなのだろう。しかし早くけりがついたのだからと慌てて来てみればこの反応では拗ねても仕方が無い。

「自覚はあるようだな?」
「今したところだよ」
「ならばどこかスペースを開けてくれ。線路を敷く空間が必要だ!君へのプレゼントだが私も線路の構築をしなければ気が済まない!」
そう言うグラハムの表情はあんまり輝いていて、僕は笑うしか無い。
「よろしく頼むよ、隊長」
「援護は任せたぞ、技術顧問」
言うと同時にグラハムは物置部屋となった客間に(本当はグラハムが初めて訪ねて来たときに使ってもらうはずだったのに、彼はそれを言い出す前にちゃっかりと僕のベッドに潜り込んでいたのだ)、突入していく。散らばった模型の箱を掴んでそれを追いかけてから、僕は首のあたりで緩く結んだ髪を高い位置に結び直した。
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